当記事を読んで頂きありがとうございます。関原デンタルオフィス歯科医師の早田といいます。今回のブログではすごく大きな虫歯をもつ歯を抜かずに保存する方法を紹介します。
当院では歯の神経の保存、歯を抜かない保存治療を最優先に考えて治療しています。
なぜかというと予後が良くない歯を治療して保存した場合と、
インプラントした場合の比較では10年生存率に差がないという論文があるためです。
まずは10年でも自分の歯で噛める様にして、それでも保存困難になった時にインプラント治療を選択すれば良いのではないでしょうか?
では、抜歯宣告される歯とはどんな状態の歯でしょうか?
1 歯が割れている
2 歯周病が進行して歯の揺れがひどい
3 被せ物をするために残っている歯の長さが足りない
4 周りの歯に影響を及ぼすほど大きな病巣がある
5 残すことで将来的に義歯やインプラント、ブリッジ治療に困難が予測される
6 症状が改善されず十分に噛むことができない
これらの理由でも十分な診断を行い、外科処置や矯正処置を行うことで保存ができることがあります。
今回の投稿では
③被せ物をするために残っている歯の長さが足りない→クラウンレングスニング(歯冠長延長術)という歯の長さを伸ばす処置を紹介していきます。
(症例写真の使用は患者さんから許可を得ています)
症例1
主訴:歯に穴が空いて噛めない、強い痛みが続いている
術前治療
歯の内部は大きく虫歯に食われていて、歯の根まで虫歯が進行しています
治療を開始します
歯に被さっている歯茎を電気メスで除去し、歯の内部の虫歯を全て除去します
(虫歯を教えてくれる青い薬で染色を繰り返しながら、青染部のみ選択的に削ります)
虫歯を除去したところ健康な歯はほとんど残りません。この時点で患者さんに対し、このまま通常の治療をしても何年ももたないことを伝えました。患者さんはしっかり歯を残す希望をされたので、クラウンレングスニングを予定した処置をしていきます。
まず神経の通り道の治療をしっかり行うために、止血処置をして隔壁(虫歯でなくなった歯質の代わりに内部に細菌感染しないように樹脂で作る壁)をつくります。
そして根管治療を行いますが、ラバーダム(ゴムのマスク)をすることで歯の内部に感染しないように行い、根管充填までしました。
次に歯茎を下げるためにクラウンレングスニングを行います
切った歯茎が上がってこないように、下に押さえつける縫合を行います
術後歯茎を切開した部分のヒリヒリ感、鈍痛が出ますが痛み止めで抑制できます。
一週間ほどは愛護的に触らず過ごしてもらい、切開による炎症所見が消えたら歯磨きをしっかり開始してもらいます。
術後3ヶ月 とにかくよく磨いてもらいます
この時点で歯根が見えていることがポイントです。
なぜ歯根が見えることが大切なのかというと
1 被せ物が取れにくくなる
2 将来的に歯が折れにくくなる
3 適合が良くなるので長期的に細菌侵入を抑制できる
というメリットがあるためです。
仮歯で経過を見た後に経過良好なためセラミックの被せ物を装着しました
このような虫歯をつくってしまった原因から考えても歯磨き方法や、モチベーションを維持するために今後もしっかりメンテナンスに来ることが非常に大切です。
症例2
主訴:古い銀歯をやりかえたい
症状は特にないが根管治療のやり直しのために被せ物を除去したところ深い虫歯があったケース
術前
被せ物を除去すると
汚染が広がり、歯の手前、奥側に深い虫歯できていました。
すでに神経がないため症状はなく、気づかないうちに深い虫歯になりやすいです。
また歯科医院でも被せ物の内部まではレントゲンでもわからないため発見が遅れます。
全ての虫歯を除去していきます、歯茎の深部まで虫歯が進行していました。
先ほどの症例と同じように止血処置して、隔壁を作り、根管治療を開始します
根管治療後にクラウンレングスニングを行います
術後1ヶ月 日常では仮歯が入っていますが、この状態で丁寧に歯磨きしてもらうことが重要です。まだ歯肉は陥没していますが歯肉の形態がどんどん変化して平坦になっていきます。
術後3ヶ月
歯茎も平坦に引き締まり、経過良好なため被せ物を装着しました。
被せ物の奥側が歯根をしっかり掴んでいることがわかります。
上の奥歯の裏側は磨くのが難しいため、メンテナンスで歯磨き方法を確認していきます。
症例3
主訴:左下の奥歯が痛い
症例1と同じく歯肉内部深いところまで虫歯が進行していました。
術前
先ほどの症例同様に精密な根管治療を行います。
クラウンレングスニングにより歯肉を下げます。
白い部分が土台となるファイバーコア、下の黄色い部分が歯根になります。
きれいなピンク色の歯茎が出来上がり、歯茎に炎症もありません。
経過良好なためセラミックの被せ物を装着しました。
まとめ
クラウンレングスニングは外科処置ですが処置後強い痛みはあまり出ないことが多く、
歯茎が引き締まるまでの管理をしっかりすれば成功しやすい処置と言えます。
しかし症例を見てわかると思いますが、全て奥歯の処置だったことからも奥歯は磨き残しが多く正しい自己管理と歯科医院での定期的なチェックが非常に重要です。
条件が悪いほど、単純な処置では解決しません。
抜歯すれば簡単ですが、保存して自分の歯で噛むためには様々な処置が必要になり、時間も費用もかかります。
次回も「治療困難な歯を保存する治療」を紹介したいと思います。
長文お付き合いありがとうございました。